近況報告  2022年12月23日(金)

 安倍晋三内閣以降、黒田日銀総裁のもとでの円安誘導の「異次元金融緩和」策がとられ、輸出企業の為替差益や海外観光客のインバウンド需要に浮かれる日々が続きました。ところが新型コロナ感染症(COVID-19)の影響でインバウンド需要がはじけ、さらに今年に入ってウクライナ戦争によるエネルギー危機、穀倉地帯ウクライナの戦禍もあり、原油・天然ガス、穀物はじめ輸入食材等の輸入価格が高騰し、円安とのダブルパンチによって「貿易収支赤字拡大」「国内上場企業の時価総額の下落」(=買収危機?)、「富裕層による株式・債券投資の国内離れ」といった「国富の喪失」ひいては「国力低下」をまねき、さらに家計の光熱費・食費等の高騰、庶民の預貯金目減りといった「庶民生活直撃」のスタグフレーションになりました。その点、インフレの米国は、2023年前半インフレ対策の金利引上げを終え、同年後半は再度緩和に向かうシナリオなので、わが国は完全に出遅れの状況です。ところが黒田日銀総裁は、「近時の物価上昇は一時的なので物価上昇2%目標達成とはいえず、かつ賃上げをともなっておらず、インフレ状態とはいえない」として、揚げ句の果ては「金利を上げると中小企業や住宅ローン世帯が打撃を蒙る」といった副作用まで持ち出して、金融緩和出口論を封じ込めてきました。前段の物価云々の卑近な例として、物価優等生の鶏卵、牛乳までが飼料・輸送・包装等のコスト高に耐えられず急激に値上がりしています。日常的にインフレをひしひしと感じる生活者目線からすると、「近時の物価上昇は一時的」というのが、経済の実態、(結構なお暮らしで)生活実感から隔たりのある空理空論、現実離れの奇妙な仮説への固執としか映りません。前段の賃上げ云々は、エネルギー価格、サプライチェーン、世界景気等不安定な状況下にあって、企業の労働分配率向上を促す難しさもあり、「米国のような賃上げをともなわなければインフレではない」といいだすと、永遠にスタグフレーションから脱出できません。付け足し的に主張された後段の金利上昇の副作用は、たとえば住宅取得についていえば、我々世代は、(結果的に右肩上がりの収入増だったにしても)年利8%弱の高金利に四苦八苦だったのです。ところがいまや超低金利の住宅ローン金利で、所得税法上の住宅取得控除とあいまって、金利変動リスクを殆ど想定せずに「毎月の家賃相当で家が買える」という「売らんかな」の触れ込みに乗り、頭金1割程度での購入者も珍しくないそうで、どう考えてもこれは異常な世界です。厳密には固定金利で借りていれば金利変動の影響はないので、ローン破綻が起こるとすれば、収入・支出の収支バランスの見通しの狂いが要因で、金利変動とは無縁でしょう。とはいえ金利上昇は不動産バブル崩壊を早め、取得物件の売却時に交換価値が下落するリスクに拍車を掛ける可能性を否定できません。これらは借金する者にとって、直面する可能性のある想定内リスクといえます。したがって、別途救済策を講じるかどうかという別次元の話はあっても、現行金融政策を凍結するモラトリアム論の正当事由には成り得ません。

 いずれにしても米国がインフレ対策で金利引上げに踏み切って以降、両国の金利差は拡大し、円安による国富喪失・生活破綻で、この先わが国はどうなるのか案じられました。ところがクリスマスを前にした12月20日、日銀の黒田サンタクロースは、突如としてYCC(イールド・カーヴ・コントロール)を打ち出し、記者会見での表現はともかく、異次元金融緩和もようやく「出口」にさしかかったようです。


[Ⅰ コロナパンデミックその後(巣ごもり通信・続報)]

 2022年も終わりに近づき、クリスマス寒波到来です。ゼミ生諸君、その後いかがお過ごしでしょうか。

(1)歯科医受診その後

 6月28日付の先便で、今年は歯痛に始まり、抜歯ののち歯が黒ずんだと述べました。いくらマスク時代とはいえ、おはぐろ的な歯は憂鬱のもとでしたが、入れ歯をつくってもらった歯科医での12月の検診のときのクリーニングによって歯の白さが戻り、ほっとしています。

(2)新型コロナワクチン接種その後

 政府はいまだ新型コロナ対策の切り札として「ワクチン接種」の旗振りを続けています。私は、先便のように3回目の接種で副反応があったのと、mRNAワクチンの影響がいまだ未知数なので、3回の接種で打ち切っています。

 「わが国コロナ・パンデミック管理前史:感染症法制定から2020年3月特措法改正まで(1)(2)(3)(4・完)」法学研究94巻12号(2021)~95巻3号(2022)(=慶應義塾HP>慶應義塾大学学術情報リポジトリ>法学部>法学研究)に書いたように、感染症法制定から新型コロナまでの国会答弁では、「ワクチン接種が唯一・万能の感染症対策」とは一度も答えておらず、あくまで「複数ある対策の一つ」という位置づけでしかありません。

 安倍内閣以上に菅義偉内閣以後顕著に思えるのですが、国産の非核酸ワクチン(塩野義)や治療薬(塩野義等)の製造許可を遅らせ、いかにも新型コロナ対策に輸入mRNAワクチンが万能のようにすり変え、その後開発された治療薬は、国産開発の治療薬承認を劣位におくのみならず、海外産ですら医療機関に十分な必要量を配らないというのが実態です。このような露骨なmRNAワクチン偏重は、海外製薬会社「利権」からみか、何らかの政治的配慮が働いているのではないかと勘ぐりたくなります。

 今年後半、発症報告義務を大幅に緩めたにもかかわらず、東京都の新規感染者は日々1万人超が続いています。ゼロコロナ政策の中国なら卒倒しそうな数値です。新型コロナ感染症は主にエアロゾル(空気)感染なのに、政府は病院、学校、雑居ビル、飲食店等の空調設備にはメスを入れず、おまけに思い付き的にマスク着用の緩和をいってみたり、旅行支援給付金によって人の移動を奨励するといった支離滅裂な政策です。

 このような状況なので、私は引き続き通院・生活必需の買い物以外の外出はせず、巣ごもり生活を続けています。運動不足解消のためYouTubeにある元自衛官kazariチャンネルから、腹筋トレーニングと肩甲骨ストレッチを加えました。ところが「年寄りの冷や水」で、肩甲骨ストレッチの「おまけ」にあるブリッジに挑戦しようとして尻もちにより右腰と右膝を痛め、いまだに響いていますが、何とか歩行や体操はしのげています。

 12月に入って、女房が右足甲の側面を骨折して、自室から動けなくなりました。家事のうち、買い物・洗濯・食洗・戸締まり・(1年刻みの輪番で場所提供の)ゴミ集積場の管理等はともかく、米独単身赴任中は自炊していたとはいえ、古希での持病発症以降は、低塩・低動物性脂肪・低糖をこころがけるため、調理は難題です。そこで仕方なく、女房が痛い足をひきずりながらも調理をしています。家事を手伝う普段の状況とは異なり、調理以外の家事は全面的に自分という状況は、緊張感・家事労働時間が質的に異なります。思い起こせば単身赴任の独米では自炊していました。1985年夏学期前半、西独ミュンスター大学滞在中は、昼食は(土日を除き)ルーケス教授の助手たちとメンザ(学食)で、朝夕2食は自炊、同学期後半、西独ゲッティンゲン大学滞在中も、昼食はメンザで、朝夕2食は自炊しました(食材運搬もあり、文献・文具を入れショッピングカートで研究室に通ったら、ゴェツ教授から「ショッピングカートで歩くのは、老婆と君だけ」とからかわれました)。西独滞在中は論文執筆の準備にとどまり、のちに「電気事業における独占と競争:熱電併給自家発への日独法比較」公益事業研究38巻1号(1986)、「西ドイツの石油備蓄法(1965)に関する一考察」法学研究66巻12号(1990)として結実しました。同1985年秋学期NYコーネル大学滞在中は、昼食は(土日を除き)学食で(VISAカードが使えたのには驚きました)、朝夕2食は自炊しながら「19世紀米国における電気事業規制の展開(1)(2)(3)(4)(5・完)」(法学研究59巻4号~8号分載。1986。のちに法学研究会叢書48巻、1989として出版)を書き上げました。また人生最後の単身赴任、1992学年度、米国NYコロンビア大学滞在中も、昼食は学食または外食で朝夕2食は自炊しました(図書館にこもり夕食はいつも11時頃でした。得意料理はチキンチョップと、大学正門向かいのスーパーで入手の新鮮魚介類をつかった天婦羅でした)。滞在中「米国における地方ガス配給事業者『バイパス』に関する一考察」(正田彬教授還暦記念論文集『国際化時代の独占禁止法の課題』日本評論社、1993)と「1920年代米国電気事業:連邦電力規制前史(1)(2)(3・完)」(法学研究66巻10~11号、67巻1号分載。1993~1994。慶應義塾HP>慶應義塾大学学術情報リポジトリ>法学部>法学研究)の2論文を書き上げました。しかし現時点2022年は、そのような気力はなく、およそ家事と論文執筆とは両立しがたいことになりました。


[Ⅱ 執筆]

(1)加除式追録

 1988年兼子仁先生編集代表の『情報公開等審査会答申事例集』(加除式。ぎょうせい)の「法人情報」の追録を執筆し続けてきました。次第に一人では手におえなくなり、法人情報該当答申のなかから青木淳一准教授にスクリーニングしてもらい、件数を絞りながら追録の原稿化をはかるという手順ですすめました。しかしさすがに年齢には勝てず、作業終了・追録原稿送付の翌日から体調変調になり本来の研究にも差し障るようになったため、青木君の了解のもと、思い切って本年、ホールドアップしました。

 なお『地方自治法』(加除式。第一法規)は、担当条文も少ないので、追録執筆をつづけます。

(2)論文

 先便にあるようにエネルギー法研究旗揚げ45周年という節目の年に起こった「ウクライナ戦争によるエネルギー危機」に的をしぼって執筆すべく準備を始めました。

 私は、まず論文題目を決め、ついで検証すべき命題なり仮説をまとめあげ、それにそった論文目次をあらかた固めてから、おもむろに書き出すという執筆スタイルです。今回のテーマは、ホットイシュウということもあって、下手をすると論文と自称するにも気がひける新聞切り抜き集ないしスクラップブック、いわば随筆的作品に堕するような気がします。エネルギー市場の状況が極めて流動的で日々刻々と動くこともあって、どのような手法でどうまとめればよいのか思案しているうちに、考察の焦点もなかなか定まらなくなり、このため、論文題目、論文目次を幾度となくつくりかえているうちに、2022年が暮れることになり、45周年に間に合わなくなりました。いい訳にもなりませんが、やはりワクチン副反応、夏の酷暑等で体力・気力を消耗したのも響いています。

 出版社の法学研究担当者には、非公式に、題目・提出時期を特定せずエネルギー関連論文の寄稿を予告済みではありますが、いずれにしても「ウクライナ戦争によるエネルギー危機」を、1編の論文で一気に論じるというのは、ボリュームの面でも困難なように思えます。早い話、長編作品が法学研究への分載を許されたとしても、何号から連載が始まるかわからず、おまけに法学研究は完成論文しか受け付けないため、原稿脱稿日と印刷・発行・抜刷り発送日のタイムラグによる論文の「鮮度喪失」が心配です。そこで、とりあえずは斥候的にイントロ・鳥観図的1編を執筆し、そのあとおもむろに次の手を考えるというのが現実的なように思えてきました。正月休みにじっくりと具体策を練りたいと思います。


[Ⅲ 論じたかった時事問題]

 今年後半、世の中でさまざまな事件が起きました。犬の遠吠え的に、それらについて論じたいのはやまやまですが、近況報告が遅いこともあって、ここではショートコメントにとどめます。

(1)安倍晋三氏の国葬

 優柔不断の岸田総理が党内安倍派への配慮か、すばやく決定しました。詳論できませんが、彼が挙げた国葬の理由は、全て論破できる薄弱なものです。

(2)旧・統一教会=原理運動の被害者救済

 「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」の法案作成前に与党が献金者の「財産権」を持ち出し、家族による返還請求に待ったをかけたのは、おかど違いの人権論で、献金を受けた教団の「財産権保護」が本音でしょうか?

(3)学び直し

 仮に目先、技術を再教育しても、あっというまに陳腐化します。AI時代にあって「人」の能力・スキル・生き方に何がもとめられるのかが肝要です。

 皮肉なことに「学び直し」が必要なのは、政治家、官僚ではないでしょうか。民主主義とは何か、「説明責任」「文書管理」「情報公開」とは何なのか?理解が不足ですね。

(4)健康保険証マイナンバーカード化

 このところ、プライバシー権、ことに(憲法学ではもはや古い学説らしい)自己情報コントロール権、サイバー攻撃といったマイナンバー制度の盲点や抑制論が消えてしまい、その一方で「ポイント」を餌にマイカで国民を覆い尽くそうとするらしく、岸田内閣は、医療DXを錦の御旗にして、健康保険証マイナンバーカード化の時期を来年あたりに早め、その結果、マイカ化していない健康保険証は、無効もしくは割高での診療といい始めました。実務的に0歳児から百歳超までの全国民にマイカ健保証を普及させるというのは現実大仕事で難題ですが、それ以上に、マイカ健保証化に同意しない者の自己情報コントロール権は、完全抹殺です。

(5)エンジェル係数倍増(選挙対策?)

 岸田内閣は、12月の防衛費に次いで、エンジェル係数倍増構想を打ち出し、財源論はあっても、歳出削減論は聞かれません。領収書不要または情報公開請求でブラックボックスの支出、例えば国会議員月間百万円の文通費、内閣官房機密費(の一部)、在外公館機密費等健在で、庶民には納得いきません。歳出削減との抱き合わせの議論と、歳出の優先順位論が望まれます。


[Ⅳ おわりに]

 新型コロナ感染症により2020年以降ゼミOB会を開催できず、おまけに私がインターネット音痴なもんで、Zoom等のリモート開催もできず、嵐が過ぎ去るのを待つしかないようです。

 ゼミ生諸君、クリスマスには間に合わないので、よき新年をお迎え下さい。次回は2023年7月頃の予定です。では、さようなら。

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