近況報告 2016年12月5日

〇 2016年の話題は、なんといってもイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票(referendum)とアメリカ合衆国大統領選挙でした。いずれも私の予想通りの結果です。しかし多くのわが国の専門家と称する人達は、極めて楽観主義的というかある種願望的な予想を立てていたため、彼らの期待を裏切る結果でした。ある意味1960年代末期と類似の社会情勢であることを見誤っているのではないでしょうか。「ポピュリズム」とのラベルを貼って思考停止するとすれば、危機意識の欠如そのものです。

1960年代末期の「不満分子」の矛先は、直(ちょく)権力・体制に向けられましたが、今回2事例は「Britan first」「US first」といずれも反国家ではなく異質です。両国とも失業率は低く景気が悪くない現状なので安心ですが、この先景気が悪化すれば、1960年代末期はおろか1930年代後半のドイツの再来のような爆発状態に陥る危険性があると感じています(124日付日本経済新聞9面「ポピュリズムの躍進は危機か」における吉田徹教授の希望的観測の結び部分は、幾分楽観的か?)。

そういえば1991年、ブッシュ政権がイラクへの武力行使に踏み切るか否かが関心を集めたときにも、わが国の中東専門家達は異口同音に「武力行使はありえない」と予測していました。私は、十字軍の歴史やブッシュ大統領の気質からみて、武力行使(戦争)は不可避と予測していました。湾岸戦争開始のニュースが流れたとき、エネルギー会社勤務の塾員T氏から「先生の予想が当りましたね」といわれたことを鮮明に記憶しています。

〇 申し遅れましたが、藤原研究会(藤原ゼミ)卒業生の諸君、その後お元気ですか。上半期の報告の機会を逸しましたので、およそ一年分の報告です。

〇 2016年は、私にとって学部卒業50周年(半世紀)、結婚45周年という一区切りの年でした。また明2017年4月に藤原ゼミ発足45周年、12月に慶應義塾大学法学研究会『法学研究』5012号「エネルギー法」研究旗揚げから45周年を迎えます。

〇 123日付日本経済新聞4面匿名解説は、「電力やガス市場を自由化する目的は、国際的にも高いコストを下げるとともに、海外勢との競争に打ち勝てる総合エネルギー企業をつくることにある」と、お役所色の濃い表現でもっともらしく述べています。欧米でも他国・他州に比べて電力・ガス価格が高いことが市場への競争導入の契機となったことは良くある話です。しかし自由化によって価格を下がるという効果を導くことができなかった例はこと欠きません。

上記解説の前段でいう「競争導入のコスト削減効果」は、エネルギー企業のコスト構造(大雑把に原料であるエネルギー価格、ネットワークコスト、販売コストの3つに分けたときの各比重等)、エネルギー資源の自給率、エネルギー価格動向、国・州の気候を含む地理的状況、需要構造、ネットワーク整備状況等の様々な要因によってコストが左右されるため、「自由化で国際的にも高いコストを下げる」というのは、大上段の楽観的観測でしかありません。

上記解説の後段でいう海外勢との競争に打ち勝てる総合エネルギー企業というのが、眉つばで甘く考え過ぎであることは、私が2014318日の公益事業学会ガス制度研究会シンポジウムで警鐘をならしたところです。少子化で国内市場飽和状態に近いため海外で稼ごうという趣旨はわかりますが、ガラパゴス的日本エネルギー企業がここで伸びをして「総合」化をはかったり、上流・下流に「海外」進出しても、事業リスクがつきまとい、オイルメジャーズや旧国有企業を含む海外勢に太刀打ちできるかどうかは未知数です。第一、資金面のほか、エネルギー資源のほとんどを輸入に頼る脆弱な事業基盤のうえに、近未来のアンバンドリング(組織分離)で会社を分解され、参入者との競争による「手負い」状態に痛め付けられるという日本エネルギー企業が、得意分野や隙間商法で細々稼ぐという話ならともかく、強大な資金力・ネットワークの海外勢に市場で真っ向勝負を挑むというのは、いささかドン・キホーテ的ではないでしょうか。

どうしても市場自由化と国際競争力とを両立させたければ、自由化プログラムが法律にも書き込まれているこの時期にいささか手遅れの感もありますが、原発事故で半ば国有化の東京電力で展開中のアンバンドリング(組織分離)事例を決して一般化すべきではなく、逆にドイツのシュレーダー首相時代のE.on によるルアガス買収のように、独禁法規制当局に目こぼしさせながら、大型企業合併・統合をまず先行させ、エネルギー企業の基礎体力を十分つけさせることが先決ではないでしょうか。その次の段階として、エネルギー市場を国内競争にさらすというのが望ましい筋書きと考えます。

日本経済新聞からもう一点。121日付日本経済新聞29面の橘川武郎「東京電力改革どう進める(上)」は、東京電力の「発電設備すべて売却を」と提言します。発電設備の売却益を原発事故の「賠償・廃炉・除染費用に充当」しても、金額的には到底必要額に達しないように思われます。また、分離後の東京電力が、「ネットワーク会社及び小売会社として生き残る」ことができるかどうかは、あくまで未知数です。そういう意味で上記橘川アイデアは、あくまで選択肢(オプション)の一つにとどまります。

2日付同紙32面の遠藤典子「東京電力改革どう進める(下)」は、送配電事業の企業価値についてより楽観的見通しのもとに、東京電力を事故処理を担う東電持株会社(以下「東電HD」という)と経済的事業会社(電力部門)とに分離し、後者経済的事業会社(電力部門)は、他電力の出資をあおぎつつも東電HDの連結子会社から持分法適用会社に移行するというもので、東電HDはいずれ国有化するという選択肢(オプション)を提示します。東電HDにとって経済的事業会社の稼ぎの一部が出資者の他電力に流れてしまうので、この選択肢に説得力があるでしょうか?仮に他電力が出資するとなると、競争法上の問題をクリアしなければならないか等、なかなか一筋縄ではいかない気がします。

日本経済新聞は、ほかの意見には耳を貸さないのか、審議会関係者の上記2名の見解を掲載するのみです。

このように昨今の新聞、TV等のマスメディアには、詳細な検証抜きの超楽観的アドバルーン的論調が主流を占めています。私の審議会委員時代には考えられないことですが、審議会関係者が好んでマスメディアやセミナーに起用されます。マスメディアは、審議会及び審議会委員礼賛の翼賛会の様相を呈していないでしょうか。

上記のような論調・命題・風潮に疑問を呈する研究者は、清涼飲料水的に審議会に起用されない限りは、マスメディア、ビジネス及び経済雑誌、法律雑誌はいうに及ばず、エネルギー業界紙・誌からもシャットアウトされ、ひたすら沈黙を守ることを余儀なくされます。ジャーナリズムの「気概」「良心」「在野精神」は、一体どこへ消えたのでしょう。

〇 明年私のエネルギー法旗揚げ45周年です。この45年間が無駄に馬齢を重ねたものでないという市井(しせい)のエネルギー研究者の「存在証明」として、旗揚げの場であった『法学研究』誌上に再登場し、「311以後のエネルギー法」(仮題)と題して、旧著『エネルギー法研究:政府規制の法と政策を中心として』(日本評論社、2010。公共政策学会作品賞受賞)のフォローアップをしたいと思います。乞うご期待!

[ゼミOB会]

当サイトで予告通り、64日(土)久方振りに東京三田倶楽部でゼミOB会が開催されました。名簿づくりから再スタートとなり、ゼミ卒業生に連絡が行き渡るかどうか不安もありましたが、OB会幹事に加えて21期の旧姓西川さんの献身的努力により、当日は40名前後の出席で盛会でした。西川さんの司会で、クイズあり、私の一次会カラオケ(AKB48「会いたかった」の出だしに続き加山雄三「君といつまでも」)と、楽しい一時でした。二次会カラオケは、最後の晩餐と同じく13名でした。欠席者からのメッセージは、西川さんから受け取り全員目を通しています。

さらに1022日(土)、20期の有志提案で「ボストン茶会(tea party)」ならぬ「横浜茶会(tea party)」が横浜ルミネで開催され、遅めの昼食のあとの二次会は、シェラトンホテルの会議室的カラオケルームでした。禁煙ルームのため快適でした。参加者全員が一次会二次会通しで、20期及び21期の有志総勢7名でした。
 
[研究アウトプット]

〇 「(町内会長がみた行政法⑦)マイナンバ-『トリセツ』」自治実務セミナー6486669頁(6月)・・・上記ゼミOB会でコピーを配布しました。
△ 「(町内会長がみた行政法⑧)下水道料の徴収漏れ」・・・自治実務セミナー明年1月号掲載予定です。
△ 原稿提出済みの「(町内会長がみた行政法⑨)」は「民泊」がテーマです。
〇 以下の加除式追録を執筆しています。
  『地方自治法』(第一法規)
  『情報公開等審査会答申事例集』

[学会・研究会活動] 

〇 329日(火)日本大学で開催された公益事業学会政策研究会・国際環境経済研究所シンポジウム「電力システム改革とエネルギーミックス-再生可能FITと原子力を中心に」に出席しました。原発訴訟・仮処分リスクについてフロアから発言したかったのですが、時間切れで断念しました。

〇 612日(日)立正大学で開催された公益事業学会大会2日目「電力セッション」に出席しました。

穴山悌三報告「電力小売自由化後の新たな市場競争形態と規制の在り方」を聞いて、市場支配者はもはや従前のインフラ保有者ではなくなる、というモバイル通信で起こったのと類似の傾向が電力でも起こる、との穴山予測に興味を抱きました。

田邉朋行報告「原子力事業の経営環境変化に対応する原子炉等規制法の在り方」は、つい最近田邉氏から送られてきた電力中央研究所調査報告書「福島原子力事故後の原子力安全規制が内包する規制リスクー原子炉等規制法の規制構造に着目して」(丸山真弘氏との共著。調査報告Y15020201611月)にまとめられています。

澤田彩報告「太陽光発電システム市場と同市場拡大政策の国際比較」に対しては、若手が陥りやすいことですが「ドイツの事例を美化し過ぎている」旨、フロアから発言しました。

〇 108日(土)9日(日)両日、慶應義塾大学三田キャンパスで開催の日本公法学会大会「民主主義の制度化と公法」に出席しました。本年の上記テーマは、最終講義でも言及しました(「最終講義・行政法及びエネルギー法・政府規制産業法の課題」法学研究82巻7号とくに6162頁)が、「行政法学徒から見た日本型民主主義の現状と課題」法学研究7712号(200412月)及び「転換期の行政法学――社会工学への道」『慶應義塾創立150年記念法学部論文集・慶應の法律学・公法Ⅱ』(200812月)で論じ、前者は行政法の橋本博之教授からは絶賛されましたが、おそらく憲法学者間で知名度は低く思われましたので、是非とも上記2論文を復活させたい思いもありました。

そろそろ今年辺りで「学会質問男」を卒業と思っていましたが、古巣での大会であることに加えて、橋本博之教授が「先生、途中で帰らないで、質問状を出して発言して下さいよ」と校舎出口で待ち構えていたので、ついつい2日目の最後まで学会につきあうことになりました。阿部泰隆先生からも「藤原君、[いまだに発言男とは]いつもまじめだね」と声をかけられましたが、これは阿部先生ご自身のことでもあるのです。

学会当日の私の発言概要は、来年秋発売の『公法研究』に討論記録として掲載される筈なので、ここでは骨子にとどめます。

第1日目の只野雅人報告「政治過程における『民意』の制度化」には、司会者の石川健治教授に質問要旨をしたため、第1部会での処理に委ねました。法学研究7712号で分析したように「投票」が候補者個人宛か所属政党の政策の一部か所属政党の政策全部か不明ですから、選挙で「民意」をはかれるものではない(法学研究7712号とくに304頁)ことの評価を尋ねました。

第2日目は全て第2部会出席です。勢一智子報告「審議会行政における専門性と『民意』」には、報告者は審議会がうまく機能し得た例を過大評価しており、一般化に適さないこと、また複数の選択肢を示して段階ごとにパブリックコメント等を繰返すという藤原提言(慶應の法律学・公法Ⅱ・とくに280282頁)がむしろ有効ではないかとコメントしています。

伊藤正次「首長と行政委員会――執行機関多元主義・再考」は通信・放送行政の審議会に言及したので、少なくとも通信では情報通信審議会と情報通信行政・郵政行政審議会への分離が行われていること、三条委員会はなかなか省庁が認めたがらず今回の電力・ガス取引監視等委員会も八条委員会であることを指摘しました。また三条委員会としてスタートした原子力規制委員会の前身は、経済産業省と原子力安全委員会・原子力委員会とのダブルチェック体制でしたが、橋本行革前の原子炉等規制法242項「委員会の意見を最大限尊重して」を根拠に、故雄川一郎先生が「かぎりなく三条委員会に近い八条委員会」と評されたエピソードも紹介しました。

柳瀬昇報告「国民の司法参加」は、裁判員が関与した判決が上訴で覆されることについて肯定的論調なので、裁判員制度が採用された趣旨から見て「量刑不当」で軽々しく覆すべきではないこと、裁判員は自分の時間を犠牲にして裁判の協力しながら徒労に終わるのならば、今後誰も協力しなくなり制度が破綻するとコメントしました。報告者の「量刑は裁判官の専権事項」との発言に対して「わが国の裁判員制度は、合衆国一部州の陪審とは異なり、事実認定だけではなく、量刑も含めて対象にしているものですから、これは制度否定の発言ではないでしょうか」と批判しました。

[社会的活動]

〇 第二東京弁護士会の委員会は、このところ情報公開・個人情報保護委員会委員として活動しています。幽霊会員ながら消費者問題対策委員会委員にも再任されています。

三宅弘前第二東京弁護士会会長を座長に「情報法制の改善に関する民事・行政の法制度検討ワーキンググループ」が発足し、7月から奇数月に一回ずつ開催されています。私は、926日の第二回委員会で「インカメラ審理について」と題して論点整理の意味で報告しました。このWGは、意見書のとりまとめが主たる任務のようでして、一年度限りのようです。

〇 公益財団法人「東京コミュニティ財団」からの就任依頼により、今秋(助成申請を審査する)同財団の助成委員になりました。

[講演会・セミナー等]

〇 1214日(月)日弁連研究財団の情報セキュリティに関するシンポジウムがありました。日本年金機構情報漏洩事件が記憶に新しく、マイナンバ-制度もスタートなので、おおいに期待して出席しました。前半、資料配布のみで十分なのに若手弁護士による下手な判例紹介が長々と続き、後半の豪華複数講師による講演のあとのフロアからの質疑応答の時間は皆無です。会費までとりながら、ただ聴くだけという何という時間配分のまずさかとあきれ返ります。

[音楽会等]

茶の間・居間でTV「クラシカジャパン」漬けの状態なので、最近は滅多にかたくるしいコンサート会場に足を運ばなくなりました。わずかに昨年129日、夫婦で「日経愛読者キャンペーン」大友直人指揮、ヴァイオリン米元響子、新日本フィルでチャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトに出かけました。気のせいか、ソリスト、後半やや元気がなくなっているように聞こえました。チャイコフスキー演奏では、コパチンスカヤ(Kopatchinskaja)の印象が余りに強烈で、つい比較したくなります。コパチンスカヤは、「クラシカジャパン」でみた2015年ブレーメン音楽祭では、メンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルトで独奏しながら踊り出す始末で、これはちょっと真似できない彼女ならではでしょう。

[カラオケ]

〇 64OB会二次会で、西野カナ「トリセツ」(音程調整中にいきなり始まる曲なので、出だし躓く)、絢香「にじいろ」、AKB48「恋するフォーチュンクッキー」、一青窈「ハナミズキ」、松村和子「帰ってこいよ」等をうたいました。

〇 1022日横浜茶会二次会で特筆すべきは西野カナ「have a nice day」で、20期・21期の諸君から「我々と等身大のうた」と好評でした。ほかに板野友美「10年後の君へ」等をうたいました。

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