近況報告 2017年12月3日

○ 今夏813日、塾法学部助手採用の1970年からの指導教授、金子芳雄先生が逝去されました。去る2013121日(町内会長の仕事のため途中参加予告のもと、デザートには間に合った)先生の米寿記念の集まりで、先生が「[来月]古稀として、あと15年はやれるね」とおっしゃったのが、私の支えといっても過言ではありません(20131212日付「近況報告」参照)。編集部の依頼による追想「塾行政法の祖、金子芳雄先生』が三田評論12月号99頁に掲載されましたのでご覧下さい。


○ 滝田洋一『今そこにあるバブル』(日本経済新聞出版社)を手にとりました。彼が慶應義塾大学大学院法学研究科在学中には、私が担当したドイツ法(文献講読)の受講生で、日本経済新聞社入社後、チューリッヒ、アメリカ総局等の海外経験も積み、金融に強い一流ジャーナリストに育ちました。現在同紙編集委員のほか、BSジャパンのキャスターをつとめています。TVでの彼の語り口そのままの分かりやすい書物です。

○ 10月に衆議院総選挙がありました。そこで以下、選挙の争点について少し意見を述べてみます。
1)争点の一つに憲法9条に自衛隊根拠規定を設ける改憲論がありました。憲法学者の学説はともかく、同条2項の「前項の目的」により自衛隊合憲論が定着しているいま、安倍構想にあった3項追加案は屋上屋を重ねるもので、全面改正のほうがすっきりするというものです。私は個人的には「政治的マニフェスト」として9条を堅持する見解であり、安倍構想は徒に周辺国を警戒させるだけで外交上マイナスであると考えます。
2)総選挙中与党からは「北[朝鮮]の脅威」が語られました。私には、北朝鮮首脳はミサイル・核武装戦略を単なる「外交カード」として使うのではなく、核保有国として国際的に宣言・承認を狙っているとしかみえません。わが国が願う「朝鮮半島非核化」は夢のまた夢に思われます。そこで核保有国北朝鮮・中国と接するわが国として、一部野党の「丸腰論」は別として、当面「非核三原則」を堅持するのかどうか、真剣に検討すべき段階にきています。ところが選挙中、このような問題意識の発言は「わが国核武装の是非の検討」という世間からは遊離した論点を提示した自民党石破氏くらいだったのではないでしょうか。
3)政府の少子化対策が保育年代の子育て支援のみでソフト面を含んだ総合的施策に至っていなことは2年前にも指摘しました(20151130日付)。
 今回の総選挙中与党公約に「保育・教育の無償化」がありました。世の見本となるべきリーダー格の政(食言、夫婦揃っての疑惑)・財(偽装)の不祥事、教育現場でのいじめ等の報道をみるにつけ「日本国は一体どのような人に育てるために、どのような教育内容・手法を念頭において、無償化しようとしているのか」と問わざるを得ません。現下の教育無償論は、「仏つくって魂いれず」構想のように思えてなりません。
 「無償化」論との結び付きは微妙ながら、大学の研究現場における形式的業績至上主義、任期つき雇用がもたらす若手研究者の身分の不安定さ等から、研究成果の質低下による研究機関としての大学の国際的競争力の低落化がみられます。加えて政権批判につながりかねない人文・社会科学は軽んじられ、それらの無力化・貧困化は、嘆かわしいものです。
4)選挙後の税制改革で、給与所得者の給与所得控除額の引下げが有力になりつつあります。いつのことだったか記憶が薄れましたが、かつて高所得者増税と称して中間層の給与所得控除額が引下げられたことがあります。
 もともと給与所得者の所得捕捉率は中小企業・農業従事者と比べ「964」とか「931」といわれます。さらに源泉徴収ですから、徴税コストも格段に低いものです。年金生活になってもこれらは尾を引きます。わが国では各政党例外なく中小企業・農業従事者の味方で、給与所得者だけは味方がいないため、放置されたままです。誰だったか記憶がうすれましたが、比較的最近『分厚い中産階級』という公約を聞いた事があります。不公平を放置したまま中間層給与所得者増税をすると、わが国から「中産階級」に属する給与所得者は完全消滅しかねません。再考を求めたいものです。


[研究アウトプット]

○ 「(町内会長がみた行政法⑨)住宅地での『民泊』解禁?」自治実務セミナー20179月号5864頁。

△ 「(町内会長がみた行政法⑩)改正個人情報保護法と町内会名簿」は校正終了し、今月下旬刊行の自治実務セミナー新年号に掲載される予定です。

○ 本年下半期、下記加除式追録を執筆しました。
『条解地方自治法(加除式)』(第一法規)

[学会・研究会活動]

Ⅰ 公益事業学会関東部会

○ 炎暑の78日(土)東洋大学で開催の公益事業学会関東部会での丸山真弘報告「EUにおける新たな電気事業制度改革の動き:欧州委員会の2016 Winter Package」(特に市場競争の導入と最終需用家の保護)について、私は「欧州委員会の構想は、1990年代、1992年ターゲット・イヤーのDG Competitionが余りに理論・理念倒れで加盟国及び企業の抵抗が大きかったことを思い出させる。ほぼ毎年訪ねていた独逸のRWEunbundlingについて、『会計分離もいずれは所有分離までいくだろうから、到底飲めない構想』といっていたが、結局はその後政治力によって(選択肢とはいえ)所有分離が射程に入り、大手は自発的に所有分離してしまった。[さらに託送料も、永年独逸は事後審査だったが、事前規制になってしまった]。加盟国の数・質に変化はあるものの、今回の構想も年数が経てば、欧州委員会の思惑通りに加盟国が動かされるような予感がする」との感想を述べました。
 討論者穴山悌三コメントで電力のビジネスモデルの変革(昨年6月大会での穴山報告参照)を欧州委員会なり企業がどう認識しているかとの問い掛けに、丸山氏はEurelectric 会議の模様を紹介していましたが、かつて同会議ライプチッヒで開催のときに参加(電源開発株式会社の水沼氏にも遭遇)したことを思い起こします。


Ⅱ 日本公法学会

 2日間の大会日程の初日が日本経済法学会(於・専修大学)と重なり、地理的にもかけもちできないため、参加を断念しました。
 今年の統一論題は「立憲主義と法治主義」で、大会案内状予稿をみるかぎり、橋本博之・大貫裕之の両報告以外は、私の問題意識・関心から離れたもののように見受けられます。
 昨年は塾が会場で、フロア発言要員として大活躍(?)でした(2016125日付「近況報告」参照)。その折の発言概要は、質問状のみ提出の第一部会「民意の制度化」は『公法研究』79159頁以下(160161頁)に、第二部会「政治的中立性・専門性と民主主義」は同誌の234頁以下に収録されています。


Ⅲ 日本経済法学会

 私が経済法学会監事(198710月~200810月の21年間)の頃は、同学会総会日程の私法学会・公法学会との重複を避けていましたが、この頃は頻繁に公法学会と重複する「自主路線」を歩んでいます。
 今年の統一論題「独占禁止法70年」第3部「独占禁止法の先端的課題」で運良く発言の機会を得ました。というのは、各部ともに報告3名、コメンテータ23名で総時間枠が90分ですから、フロア発言はまず望めない状況でした。予め学会年報38号(有斐閣)の林秀弥報告の予稿「規制改革と独禁法――公益事業を中心に」を読み、質問状を作成してのぞみました。持ち時間の関係で林報告前半のタクシーは割愛しました。運輸はもともと「公益事業」としてはグレーゾーンorトワイライトゾーンに属し、規制目的・手段等が問われます。藤原淳一郎「MKタクシー運賃値下げ申請事件第一審判決」経済法学会年報7号、同「運輸事業における規制緩和――トラックを中心として」ジュリスト1082号、同「最終講義・行政法及びエネルギー法・政府規制産業法の課題」法学研究82789Q&A藤原回答等参照。政府規制産業ないし公益事業法については、藤原淳一郎『エネルギー法研究――政府規制の方途政策を中心として』242頁以下の第3部[日本評論社、2010]参照)。
 林報告に電気通信のユニバーサルサービスに限定しコメントしました。70歳定年で再任されなかった2015年初頭までユニバーサルサービス委員会(及びユニバーサルサービス政策委員会)委員(20157月4日付近況報告、藤原淳一郎・矢島正之監修『市場自由化と公益事業』282頁脚注1[白桃書房、2007]参照)だったので、あくまで個人的感想として述べたのです。学会年報の次号に「シンポジウムの記録」として要旨が収録されるとは思われますが、念のため(若干発言順序を入れ替え、かつ書き言葉にて)概要を記します。


 第1に、ユニバーサルサービスの対象としてPSTNを前提にしてきたたが、「不可欠性」(essentiality)要件は裏返せば代替サービス(alternative service)の存否である。「携帯電話」も対象にとか、公衆電話は外すべきとの意見も委員に多かった。携帯電話事業者は、エリアカヴァ率等から時期尚早と反対した(現時点は不知)。公衆電話擁護は、委員中消費者団体と私のみ。東日本大震災の総務省検証で、公衆電話の機能役割が再評価された。
 第2に、トレンドとして「ユニバーサルサービスからユニバーサルアクセスに」との考え方は委員在任当時からあるが、何を対象にするか線引き等に難しさがある(藤原・前掲法学研究82790Q&A藤原回答参照)。
 第3に、ユニバーサルサービスの担い手として、当初誰でも手を挙げることができるという話が、政省令段階でNTTにしぼられた。林報告が指摘するユニバ収支赤字(年報171頁下から2段落目)も、コスト削減をはかるようにと接続料なみ査定によるもの。これは日本電信電話株式会社法(以下「NTT」)法3条によるNTT持株及びNTT東西の「責務」規定がよりどころといえる。将来、脱PSTNによりユニバーサルサービスの対象をかえていくときに、「NTTなみに赤字補填がないなら引受けたくない」と基金制度を前提にした現行枠組みが崩れる可能性をも秘めている。
 以上、PSTNを前提にいわばNTT法に乗っかったというのが、これまでのユニバーサルサービス基金制度の運用という印象である。


[社会的活動]


Ⅰ 弁護士会


○ 第二東京弁護士会では、引続き「情報公開・個人情報保護委員会」委員です。定例会後半のミニ講義では、引続きAI、ロボット等の先端的テーマの耳学問です(極力質問するよう心掛けています)。


○ 第二東京弁護士会「情報法制の改善に関する民事・行政の法制度検討ワーキンググループ」(三宅弘・元二弁会長が座長)は、上記委員会の「部会」としての再構成が予定されています。

Ⅱ 町内会

 前回(本年71日付近況報告)述べた配水池上部公園への自販機設置問題は微妙な段階のため、顛末は次回まわしです。

Ⅲ その他

 昨年度から、東京コミュニティ財団の助成委員会委員として、同財団助成対象団体の選定にかかわっています。

[ゼミOB会]


 横浜茶会は、日程調整不調のため1119日にごくごく少人数で昨年二次会と同じ場所でカラオケ・ランチでした。

[音楽会・美術館等]


○ 先便(71日付)のようにコンサートには出づらくなり、もっぱらTVクララシカジャパンを楽しんでいます。同局は「ヨーロッパ直送便」と称して最新の音楽祭の映像を放送しています。今年はマルティン・ルターの「宗教改革」五百周年ですから、ゆかりのドイツや国教会がルーテル教会の北欧で宗教改革にちなんだ音楽祭があってもいいはずですが、どうだったのでしょうか?

○ このところJポップスを余り耳にしなくなったこともあり、カラオケ新レパートリーはありません。西野カナのCDLove it」収録曲から、「手をつなぐ理由」に挑戦しようと思っています。


○ 東京駅構内のステーションギャラリーでの「シャガール:三次元の世界」を観ました。もともとはルノアールが好きですが、毛色の異なるシャガールにも関心があります。これまでシャガールをまとめて見たのは、佐藤総合事務所時代に紳士服青木経営者のシャガール・コレクションと、高知県立美術館シャガール常設展示といったところで、いずれも絵画のみでした。今回「三次元の世界」というだけあって、彫刻、陶器も陳列されました。件数は多くはありませんが、同一題材での(デッサンならぬ)下絵、完成絵画、彫刻の三点セットでの展示品も散見され、それぞれを比較することで、シャガールの想像力ならぬ創造力をかいまみることができました。展覧会のポスター(無料は珍しい)を持帰り、ルノアール一色の部屋に飾ったところ、部屋全体が引き締まりました。

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