近況報告(2020年10月28日)

[ I コロナ・パンデミック
途上国や難民キャンプのみならず、先進国の欧州、米国においてすら、コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは終息の気配がありません。わが国も例外ではなく、各地の感染状況は、要注意の状況が続いています。先進国ですら、途上国からのプーメラン効果を抜きにしても、状況が落ち着くのに3年はかかると、私は推測しています。
        7月12日付「近況報告」で、本年1月中旬以降の「巣ごもり」生活を紹介しました。その後も対面の学会・研究会等は中止されたままです。NTTコムの「電話会議」を別にして、Zoomを利用した研究会・セミナー等は、自宅にツールがないため、参加がままなりません。私のようなアナログ型人間は、社会から置いてきぼりになりつつあります。しかし「逆説的ながら、デジタル化時代だからこそ、アナログ思考のアナログ型人間に、それなりの存在意義がある」と自己暗示にかけ慰めています。大学図書館も実質閉館状態が続き、都内への外出の機会もないままに根気強く「巣ごもり」生活を続けています。
政権は安倍内閣から菅内閣にかわりました。依然として「東京五輪2020は、人類が新型コロナ感染症を克服した象徴」とか言って、1年遅れの開催にこだわっています。重篤化リスクの高い我々後期高齢者にとり、五輪開催で新たな感染者クラスターの誕生、ひいては全国に新たな感染の波を引き起こさないか、気が気でない毎日です。
それに加え、「経済復興」「観光業救済」の美名のもと、与党政治家に政治献金が動いたと噂される「Go to Travel」キャンペーンが始まりました。これにより恩恵を受けるのは、旅行取次業者と大手旅館、さらに時間・体力・免疫力・経済に余裕のある(顧客)層に限られます。それ以外の取り残された中小旅館、時間・経済・体力・免疫力を持ち合わせない我々後期高齢者(の大部分)は、指をくわえつつ、キャンペーンによる感染拡大リスクを心配するしかありません。このような選挙の票稼ぎ的バラマキ政策は、不公平感を増幅させるだけです。支援するにしても、対象はインバウンド需要頼みの旧態依然としたビジネスモデルの既存観光業体にではなく、従業員の雇用確保を本来の「ターゲット」にすべきで、筋違いの制度です。
        そうかと思うと、政府は年末年始の帰省や初詣による感染拡大をおそれ、年始の休暇を11日間程度に長期化し、人の移動や初詣参拝者をなだらかにする案を提示しています。一見賢明な感染防止策のように見えますが、その実、2018年12月7日付「近況報告」で述べた祝日に関する法律改正のときと同様、「国民生活への悪影響の回避策」を講じないと、早い話、医療面でみても、慢性病・持病持ちの患者にとっては不安だし、他方、医療機関側も、期間中医師・看護士・薬剤師・検査士等のマンパワー確保が困難で、急患にすら対応できず、医療現場がパニック化し、それこそ「医療崩壊」を招きます。したがって上記の案は、「国民」「現場」からかけ離れた官邸の「机上の空論」でしかありません。
[ II 菅内閣誕生
菅総理は就任直後、災害対策の場で論じられてきた「自助・共助・公助」概念を突如掲げました。真意はわかりません。コロナ・パンデミックで雇い止めで苦しむ人々、見えないウイルスにおびえる持病持ちや我々高鈴者を前に、共助・公助はともかく、このタイミングにことさらに「自助」を持ち出すというのは、いかに庶民感覚からずれていることでしょうか。
        「自助」を持ち出すのであれば、まず自民党総裁として「政党助成金」返上を公約、実行すべきです。政党助成金がなければ、参議院広島選挙区に1億5千万円という桁外れの資金を拠出できなかったのです。安倍政権時からの選挙対策的バラマキ支出の乱発や一部ゴマスリ月刊誌やゴマスリ・メディア依存ではなく、そろそろ真に国家・国民のための政策へと政策転換をはかり、それによって国を憂う個人党費や個人寄付金によって党の財政をまかなう「国民政党」に脱皮すべき時ではないでしょうか。
当初政権の目玉として、2015年11月30日付及び2018年8月31日付「近況報告」にある携帯電話料金の引下げを再度持ち出しました。これにも与党政治家に政治献金が動いたとの噂もありますが、それは別として、インフラを持たない参入者を優遇して、もっぱら携帯大手3社をいじめると、携帯大手の基地局はじめ5G関連インフラ投資が今後確保されるのか、ますます5Gの普及が遠のくのではないかとの疑念が消えません。
菅内閣は、新型コロナ関連の給付金支給の遅れをダシにして、「縦割り行政の打破」や「行政のデジタル化推進」を重要政策に挙げています。前者の「縦割り」には権力のチェック・アンド・バランスの面もあることを見失ってはいけません。
        後者の行政のデジタル化は、何のためのデジタル化なのでしょうか。また「マイナンバーカード」は、何のためにより普及させる方策を講じ、個人情報を特定のカードに集中化させるのでしょうか。肝心の目的や理念が不明瞭で、国民の心を打ちません。それどころか、住民基本台帳ネットワークのときからの議論ですが、厳しさ・激しさを増す情報戦争のこの時代にあって、(海外の国家お抱えハッカーを含む)ハッキング、スキミング等のセキュリティ対策をみると、とかくわが国は他国以上に官民学ともガードが甘くて危険にさらされています(小稿「町内会長が見た行政法⑦マイナンパー『トリセツ』」自治実務セミナー2016年6月号)。他方、デジタル化についていけないスマホすら持たない情報弱者(デジタル・ディバイド)や、アナログ型人間の存在を忘れてはなりません。「行政のデジタル化推進」によって、わが国国民の個人情報が(他国、多国籍を含む企業等により)丸裸にされたり、情報弱者切捨て御免という「負」の面を正しく認識し、適度のブレーキをかけつつ進めるという「大人の知恵」が求められます。
そんなことよりも、長年官房長官をつとめたわけだから、「内閣官房機密費」の妙味・問題点を知り尽くしているはずです。そこで、在外公館も含む政府の機密費について、支出先・金額・目的の明朗化(国民に開示できない支出も、最低限、会計検査院による内部監査可能な状況におくこと)を公約すれば、菅内閣のクリーンなイメージが形成されることでしょう。
論文・研究等
先便で言及の4月11日脱稿不定期連載「町内会長がみた行政法・新型コロナで緊急事態宣言!」は、「町内会にも新型コロナ禍押し寄せる!」と改題のうえ『自治実務セミナー』本年11月号60〜65頁に掲載されました。4月上旬の執筆なので間延びしていますが、現時点でもそれなりに意味のある指摘も織り込まれていると思います。
関連して、先便で申したコロナ・パンデミックに関する輪文のその後ですが、当初はさらりと書き上げるつもりが、いつもの完壁主義が仇になり、ついつい論点がふくらみ過ぎました。さらに運悪く炎暑等のため執筆が完全停止に追い込まれました。涼しくなり秋の花粉症とつきあいながら、一日置き程度のスローペースでいまだに執筆途上です。
「3・11以後の電力市場改革序説」法学研究91巻9号及び同10号(2018)*において、私は、「原子力発電及び石炭火力発電のゼロ・ケースの検討を」と提言しました。コロナ禍において、脱石炭の動きは以前に増して加速し、政府もエネルギー基本計画の見 直し作業を開始しました。そこでエネルギー基本計画の見直し作業が一段落した時点で、これを題材に、上記「3・11以後・・・」の続編を執筆する予定です。
        *2018年論文は、ウェブサイトでの閲覧・印刷可能です。慶應義塾大学学術情報リポジトリ>法学部>法学研究>
        91(2018)>91(9)及び・・・91(2018)>91(10)
ライフワークの電カ・ガス・通信のアンバンドル論(分離論)着手は、あとまわしになっています。来年喜寿を迎え、時間との闘いです。

[ IV 学会
2019年11月5日付「近況報告」で紹介した昨年の日本公法学会第1部会での私の発言内容は、『公法研究』82号(有斐閣,2020)162, 167, 168頁に掲載されました。細部はともかく、議事録でとくに気になるのは、柴田報告について後期高齢者健康保険の窓口負担の「世代内格差」に言及した部分です(167頁)。俗に後期高齢者健保の窓口負担は「一割」と報じられるが、実は「窓口三割負担者」もいて、負担割合決定のもととなる個人所得の認定における所得の捕捉率、すなわち九(給与)・六(中小企業)・四(農業)という不公平税制を引きずっているため、この窓口負担の格差が果たして「公平」といえるかどうか、というのが私の真意です。そのように読み替えて下さい。
[ V 社会的貢献
「町内会」について、2018年8月31日付を最後に、配水池の上部公園入り口の門扉開閉問題について、報告を中断していました。町内会が運動公園利用団体に(彼等は例外的に車両乗り入れを許可されていて)「車輛出入りのたびに車両用門扉を開閉すべし」と求めていましたが、運動公園利用団体は一向に応じず乎行線をたどり、町内会及び行政が提示した当面措置は、門扉付近への防犯カメラの増設でした。これは公園が門扉からのアクセス道路を含め居住地域からいっさい見通せない丘の上にあり危険なためです。交渉過程でカメラの電源問題で1年ほど時間を浪費しましたが、行政の後任者が積極的に動いたこともあって、ようやく車両通行門出入りの車両を記録できる防犯カメラ1機が増設され、本年4月1日から稼働しています。

[ VI おわりに
先便で持ち越した昨年12月のエネルギーフォーラム社主催の有料セミナー及び公益事業学会関東部会での発言録は、賞味期限切れのため、思い切って掲載を断念します。
最後に、ちょうど10日前の10月18日早朝、「百寿」の銀杯を目標に執念の塊だった母が、あと一息という99歳半で老衰のため死去しました。このような次第で、お一人お一人に喪中の挨拶状を出せませんが、明年の賀状は、喪中につき失礼します。
次回は、明年6月頃の報告を予定しています。少しはパンデミックの出口に明るい兆しがみえることを期待しつつ、それではゼミ卒業生の諸君、パンデミックに負けずにお元気で、さようなら。

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